対談コラム TONOSESSION

第五回 中村久美子 氏 × 殿内崇生

中村久美子 氏

株式会社 関西国際学園 代表取締役

兵庫県生まれ。大手電機メーカー、大手英会話スクールにて、人材育成、社員研修を行う。長男出産後、日本の学校教育は世界や企業が欲しい人材を育てていないと感じ、自身の長男に最高の教育を受けさせる事を実現させる為、2001年に学校法人では無く、株式会社として関西国際学園乳幼児部、幼稚園部を設立。更に翌年初等部を設立致しました。現在は国際バカロレア初等教育プログラム(PYP)を日本語及び英語で提供する世界で唯一の学校を運営しています(※国際バカロレア認定校は日本では32校ありその中で初等教育プログラムを行っている学校は16校ありますが、その全てが英語を主な指導言語とするインターナショナルスクールです)。また、大学生の長男、小学生の長女、次男の3人の母親でもあります。

殿内理事長

本日はありがとうございます。先ず初めに株式会社関西国際学園を起業する事に至ったのかを教えて頂けますか。

中村 氏

私は学校が嫌いでした。

私が学生の当時は公立校にいわゆる不良生徒が多く、母親が公立校に進む事を嫌がり私立の中学・高校・大学一貫校の女子校に進学しました。進学した学校は良き母、良き妻を育てるというスローガンの学校でしたので学校の勉強が楽しくなく、また、教科書を覚えれば点数がとれる勉強だったので学校に行かなくても良いと思っていました。自宅から学校までの距離も電車で40分~50分程度かかる遠い場所だった為、雨が降ると学校に行かない事もありました。それでも教科書を読んでいれば、テストで良い成績がとれ、卒業できるというシステムだったので学校で学ぶという事が何なのかが理解できませんでした。私は当時学校で問題児でした。授業中に居眠りをしていた時に「起きろ。勉強する気がないなら帰れ。」と言われたので教科書を覚える為の授業なら必要ないと判断してそのまま帰宅してしまった事もありました。

やがて自分が子どもを産み、子どもの為の学校見学へ行った際、自分が学生当時と何も変わらない教育現場を見て「こんな時代遅れな教育を未だに続けているのか」と非常に驚きました。企業であれば常に成長・変化を繰り返し、進んで行かなければならないのに教育現場は全く成長していない。そこに自分の子どもを入学させて自分を超える人間にならないだろうと思い、インターナショナルスクールも考えましたがあくまでインターナショナルスクールは日本人の為の学校では無いと考え、それならば「自分で学校を作ろう」という思いに至りました。子ども時代に自分が学校を好きだったならば「学校を作る」という考えには至らなかったと思います。

中村 氏

殿内理事長は、学生時代、学校は楽しかったですか。

殿内理事長

小学校から大学まで楽しい事・楽しくない事色々とありましたが、全体的には楽しかったと思います。

中村 氏

私は苦痛でした。

女子校だったので女の子しかいなかったのですが、その子たちと全く共感する事がありませんでした。本当に孤独で一人でした。学校は戦いでした。様々な事を考え、悩み、先生を困らせようと先生の知らない事を質問する為にとても勉強しました。すると自然に学力は身についてきましたね。

殿内理事長

そのような経験をされてきた中で、株式会社として学校法人を起業するきっかけを教えて頂けますか。

中村 氏

先程申し上げた事ですが、自分に子どもが産まれた事が一番のきっかけでした。

その前には企業に勤めており新入社員研修や教育を行っていたのですが、その中に東大卒業生や京大卒業生もいました。その様な高学歴の人たちに研修を行う為に、会社は私に様々な研修の為の教育を受けさせ、とても多くの投資をしてくれておりました。高学歴の人たちへの研修を始めるにあたり私はとてもワクワクしていたのですが、いざ研修を始めてみると、情報処理能力は凄く高いのですがクリエイティビティが無い研修生が半分位でした。仕事でも「これを続けていてうまく行くのですか?」という質問がとても多く、私はうまく行くかどうかの結論なんて解る訳が無いと思っていました。ただ彼らは学校の中でのエリートであり間違わない勉強をし、答えがある問題をずっと解く勉強をしてきていたのだと思いました。つまり答えの無い事に耐性が無い。答えのない問題に対して前に進めない習性を持っている様に感じました。世界中の色々な国の方と仕事をしていてクリエイティビティが無いのは日本人の特徴だと感じています。学校に行き、塾に通い、効率のいい解き方を教わり、問題をもらって解く。これを繰り返す教育をしてきているので問題を見つける能力が無いと思いました。

殿内理事長

これは2月例会の講師でお越し頂きましたティーチフォージャパンの松田悠介氏ともお話ししていたのですが、詰め込み教育が今の教育であり、暗記力で学力が決まる事が非常に多いので正にクリエイティビティが無いですね。現代の日本の教育は遅れていると思います。

中村 氏

これは日本だけでなく世界中でもその様な事は沢山あるのですが、2020年にセンター試験が無くなり、大学入試改革となる予定ですが、本当に大学入試が変わらないと駄目だと思います。テストに統制があり、画一的なテストをしているので攻略しやすいのです。ある塾へ行くとそこは先生が東大生で、その塾から国立医学部への進学率が6割~7割もあるのです。学校や塾でいかに効率よく攻略するかで全てが決まっているのです。海外の大学入試制度は個性を大切にし、教授の欲しい生徒を選ぶ事ができる制度で、全く画一性が無いのです。この方が私は平等だと思います。数学が得意な子と友達を作るのが得意な子がいるとしたら、どちらも凄く優秀で個性に溢れていると思います。ただし、画一的なテストを行うと数学が得意な子が優秀とされてしまいます。これでは社会に出て同じ様な子ばかりになってしまいます。私の会社では職員が250名、20ケ国以上の人が働いており人種がバラバラです。職員それぞれがとても個性に溢れており、だからこそチームが作れるのです。学校では多様性が無く、同じテストで入学してくるので同じ様な子が集まってしまうのです。これでは、これからの大学が社会で生き残る上で不利になり、また、これからの社会は多様性を求める人たちが多くなると思います。私は入試制度が変われば勉強の仕方も変わると思っております。今の学校の勉強は子ども向けではなく、先生向けだと思います。教科書に書いてある事ばかり教わるのであれば自宅で教科書を読んでいれば良いと思います。

殿内理事長

そういう経緯や想いがあり日本の教育を自らが変えていきたいと思われたのですね。

中村 氏

日本の教育を変える等という大きな事は当時思っておりませんでした。私の思う教育を行う。ただそれだけでした。現在は株式会社だからこそできる教育を外部へ示していかなければならないと思っています。

殿内理事長

学校法人という形態では行うカリキュラムが決められてしまう為、自由度を持たせる為に株式会社という形態をとられたという事ですね。

中村 氏

その通りです。ビジネスでは制約があれば信用度が上がります、ただし、自由度が無くなります。

自由度をあげると信用が無くなります。例えばISO等を企業が取得すると社会的な信用度は非常に上がりますが、ISOの制約により自由度が下がる部分が出てきます。

学校でいえば学校法人を取ると制約がかかり自由な教育ができなくなるので学校法人ではなく株式会社という形態を選択しました。結果を出して良い教育をしていけば学校法人という枠が意味の無い物だと証明でき、発展できると思っているので学校法人を取得するつもりはありません。全ては自由だと思っています。

殿内理事長

なるほど。それではその様な形態をとり、株式会社関西国際学園で採用している国際バカロレア初等教育プログラム(PYP)を日英バイリンガルで行っている事についてお聞かせ頂けますか。

中村 氏

実際に日本語50%・英語50%のバイリンガルでプログラム行っている学校は私たちが唯一です。

多くは一言語20%もう一言語80%等ですが完璧なバイリンガルはありません。その理由は先生が英語と日本語の2人必要になりコストがかかるからです。また外国人スタッフは元々この様な教育を受けてきているので慣れているのですが、日本人のスタッフは詰め込み教育を受けてきているのでスキルアップが必要になります。そして一番重要な事ですが、インターナショナルスクールへ行くとその国の文化の教育を受ける事になります。つまり日本人の為の学校では無い側面があります。そうすると英語を話せても日本人の心を持たない日本人に育ってしまう可能性があるのです。英語を話せるからといってその国の人間になる事はできません。また、日本語もきちんと話せない子に育ってしまう可能性もあります。そして日本語を教える中で日本の文化をしっかり教え、日本人の心を育てた上で様々な言語・文化を勉強する事で日本人の心がしっかり育ち、日本人としての誇りを持つ事もできると考えております。つまり英語だけを堪能に話せる人を育てるのではなく、日本語・日本の文化を理解し日本人としての誇りを持ち海外で活躍できる人を育てるという事です。

殿内理事長

日英バイリンガルで教える事によりきちんとした日本人としての学びも与えてかつ、国際的に羽ばたける教育を行っているのですね。

中村 氏

その通りです。国際バカロレア初等教育プログラムは現在インターナショナルスクールか私たちしか取得できておりません。しかしながら英語だけ教えると日本人にはなれないのです。単純に英語が話せる様になりたいならば大人になってからでも可能です。小さい頃から英語はやっていた方が良いとは思っています。ただし、様々な国の文化や言語に親しむ事はとても重要だと思います。

殿内理事長

日本人の心、日本人とは何か。日本人のアイデンティティを大切に日本の文化も含めて教育を行っているという事ですね。確かに英語教育だけを行っていくと日本人の気持ちが育まれない気がします。

中村 氏

はい。また、日本の教育は個人で戦う事しかしないのですが私たちの教育では全てチームで行います。それぞれの個性を大切にして多様性の中で助け合う事ができます。国際バカロレアの探求学習とは正にこの事です。

殿内理事長

本年2016年度の横浜青年会議所の運営テーマの「創発」は個々の組み合わせが想像以上の力を発揮すると定義しておりますが、個々の組み合わせには多様性があった方が良いと思っております。私たちは青年会議所でチームを訓練している途中ですが小さな頃から教える事はとても大事な事だと思います。

ところで、今後、学校教育をどの様にしていきたいと思っておりますか。

中村 氏

学校教育は親の教育も含んでおります。

例えば会社の研修を行う側になったとしても、研修を行う為の教育を受けるのです。

子育ては誰も研修をしてくれません。何も分からないまま子育てをしなければならないのです。だからこそ、親に研修を受けて頂くのです。子供の教育をする時には併せて親の教育も行っております。その親子教育の拡大と今後は関東で幼稚園や小・中・高一貫校を作りたいと思っております。また、全寮制の学校も作りたいと思っています。

殿内理事長

先程、当会の運営テーマを「創発」とお話しさせて頂きましたが何か毎年テーマがありますか。

中村 氏

昨年は「コラボレーション」でした。本年度は「Let’s Change Education」です。そのテーマで1年間活動していきます。

殿内理事長

4月例会で「創発×インパクト」というテーマの元、お話し頂けるのを楽しみにしております。宜しくお願いします。本日は長時間に渡りましてありがとうございました。

中村 氏

はい、ありがとうございました。

■国際バカロレアとは

国際バカロレア(IB)は1968年にスイスで創られた財団法人で、幼稚園児から高校生まで国際的な教育プログラムを提供しています。初等教育プログラム(PYP)、中等教育プログラム(MYP)、ディプロマプログラム(DP)、キャリア関連プログラム(CP)の4つのプログラムがあり、特にDPは自国以外の大学進学の道が大きく広がることもあり、日本も含め世界中から注目を集めています。国際バカロレアの理念は「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」です。

■国際バカロレア初等教育プログラム(PYP)とは

3歳~12歳までを対象とした精神と身体の両方を発達させることを重視しているプログラムです。カリキュラムは「何を学びたいか」「どうしたら一番よく学べるか」「どうしたら何を学んだかわかるのか」という3つの質問を中心に構成され、どのような言語でも提供可能となっています。

PYPのカリキュラムの基礎には以下の6つのテーマがあります。

・Who we are
(私たちは何者なのか)

・Where we are in place and time
(私たちはどのような時代、場所で生きているか)

・How we express ourselves
(私たちはどうやって自分を表現するか)

・How the world works
(世界はどう動いているか ※世界の仕組み)

・How we organize ourselves
(私たちは自分たちをどう組織しているのか ※社会の構造)

・Sharing the planet
(地球の共有)

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掲載写真3

対談後記

今回は、4月例会講師である株式会社関西国際学園 代表取締役 中村久美子様にお会いさせて頂いた。テーマが「創発×インパクト」。学校が株式会社である事もインパクトのある事であるが、講師としてお越し頂く中村様の学校教育に対する情熱が半端ないぐらいすごい方だった。中村様自身が学校嫌いであった事が学校に対する意識を高め、自らが思い描く学校を実践されているのだと感じた。そして、バイリンガル教育のお話しは大変興味深かった。きっと当日会場に来られる方々で子育てをされているメンバーも多くいると思う。何かしらの皆様に感じて頂けることがあると思う。当日を楽しみにして頂きたい。

殿内崇生

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